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蜂須賀ちなみの日記帳

2014.8.19 NICO Touches the Walls @日本武道館 について

月末いろいろやってたのでバタバタしてて遅くなってしまいました……。

8月19日(もう10日前なんですね!)、NICO Touches the Wallsの日本武道館でのライヴ『ニコタッチ ズ ザ ウォールズ ノ ブドウカン』に行ってきました。

それについての感想です。
レポ的なものはいろいろな媒体に出てるし、もういらないかなーと思って、どうせだから自分の感情込み込みで書いてます。
あしからず……。

以下、追記にて。

以前、私はNICO Touches the Wallsというバンドについて『大好きなバンドなのに「もっと苦しめ」と言いたくなる』と書いた。(参照:vol.16「開き直りの果ての覚悟」│YUMECO RECORDS
 
それは別に「好きな人のことをイジメたくなる」みたいなツンデレ精神によるものでもないし、人の痛みを見て快感を覚えるような意地悪な性格によるものでもない。
ただ、全部徹底してやりきらないと進めない性分ならば、いっそやりきってほしかった。
 
そしてそれはとても面倒な工程だろうけど、そうやって眉間に皺寄せながら自分たちや音楽とシビアに向き合うニコの姿に心動かされることが多かったし、彼らが向き合ってきた重みに対して感動することが多かった。
 
 
 
そんな私にとってここ1年のニコはちょっとした衝撃で。というのも、彼らのライヴを観ていてスカッとした気分になったのはほとんど初めてだったと思う。
 
初の自主企画対バンツアー、ベストアルバムのリリース、セルフプロデュースの空間で連日ライヴをするという前代未聞の企画に、久々のZeppツアーや「天地ガエシ」のリリース。
 
今までの道のりを振り返り、その事実を飲み干して次へ進もうという決意。そのためには4年前に自らの小ささを思い知ったその場所=日本武道館で〈リベンジ〉を果たす必要があるということ。
――今年のニコからはそんな想いがヒシヒシと伝わってきて、明確な目標に向かってひたすらに走る姿は、ツアー/リリースの度に何か答えを見つけようともがいているその姿とは明らかに異なっていた。
 
 
Tシャツ1枚でステージに立つメンバーはどこか吹っ切れたかのようにとても楽しそうで、デトックス後みたいにスッキリとした表情を浮かべていたのをとてもよく憶えている。
 
そんな姿を見ているうちに気づかされた。
 
 
 
「もっと苦しめ」と思ってしまうのは、その先でいつか彼らの笑顔が見たいと思っているからなのかもしれない。
そういう日がいつか来るとどこかで信じていたからかもしれない。
 
 
 
そしてそれは、きっともうすぐやってくるんだろうなあ。
 
 
 
眩しいくらいの晴天だった8月19日。
 
前日深夜に更新された光村龍哉(Vo&Gt)のブログ に「もはや期待しかないよバカヤロー」なんて心の中で返しつつ、今日が〈そういう日〉になるとちょっぴり覚悟しながら武道館へ向かったのだった。
 
 
 
 
 
SEが鳴りやむと同時にステージは暗転。
ウワッと客席から歓声が沸き上がるなか、対馬祥太郎(Dr)の元に集まったメンバーはステージ上で4つの拳を合わせる。
対馬が叩く生き生きとしたビートに乗っかって、光村/古村大介(Gt)/坂倉心悟(Ba)が始めたあのイントロ――1曲目は「Broken Youth」。
今年2月に発売されたベストアルバム『ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト』リリース時のインタビューにて、光村が(ベストのなかで)「いちばん良いトラック」だと言っていた、ご丁寧にサビが3回やってくるベタな展開とストレートな蒼さを併せ持つ曲だ。(参照:『音楽と人』2014年3月号)
 
「今この瞬間、この場所は俺たちのもんだぜ!」という光村の叫びから「THE BUNGY」へ。
開始と同時にバンッ!と大きな音を立てて上がった花火はスタートダッシュを合図する号砲のよう。
ライヴ定番曲としてセットリストの後半で演奏されることが多いこの曲だが、恒例になりつつあったコール&レスポンスも光村&古村のギターバトル(註:複数のプレイヤーが交互にソロ回しを行うこと)もない。CD音源同様の3分強という短時間で、しかもライヴの序盤に終わってしまったことに驚く。
 
「ホログラム」を経ての「夏の大三角形」では(Zeppツアーでもそうだったが)同期音を一切用いずに4人の音だけでの演奏。
冒頭4曲は人気の高いシングル曲ばかりだが、そのシンプルなアレンジには〈リベンジの舞台では生身のニコで勝負しよう〉という気概を感じる。
そして心なしかテンポが遅い。下手したら原曲よりも遅い。
それは〈BPMが高速化している2010年代のJ-POP/J-ROCK〉シーンへのアンチテーゼとも捉えられるかもしれないが、そう考えるよりも先にどうしても、一つひとつの音に重みをしっかりとつけながら演奏するサマを、一歩一歩踏みしめながら進んできたバンドの歩みそのものに重ね合わせてしまった。
 
そう思っていたところで最初のMC。「満を持してこのブドウカンに帰ってきました!」と光村。
満面の笑みで客席を見渡す4人の姿に、ライヴ序盤にもかかわらず胸が熱くなってしまったのだった。
 
 
 
 
 
ニコの楽曲には必ずと言ってもいいほど〈孤独〉が付きまとうが、それがドラマチックに描かれていたのが「バケモノ」〜「Mr.ECHO」の部分。
 
「B.C.G」「アビダルマ」などで盛り上がる会場の狂騒を覆い隠すかのようにギターの歪んだ音が空間を満たし、特に曲紹介もないまま新曲「バケモノ」が披露された。
 
坂倉が丁寧に紡ぐイントロに混じるノイジーなギター音、先ほどまでとは異なり非常に静かな調子で唄う(というか〈呟く〉にちかい)光村。
息がつまるかのような静寂に思わず口元を抑えてしまった。
突然孤独の淵に突き落とされた感覚に陥ると、サビでは体内で渦巻く感情をそのまま表現してみせるかのようにバンドの音が会場内に渦巻く。
 
そして「Diver」へ。
ファン人気が高いこの曲ではイントロが始まるなり歓声が起こることも珍しくはないが、この日はそれもなく。武道館全体がその世界に呑み込まれ、聴き入っているのがよく分かる。
そのくらい、いつになく重みのある「Diver」。
 
〈深い海底を目指してもう一度だけ 息をしてみて ただの幸せに気づいたらもう二度と溺れないよ〉
 
最後の最後に希望を見出すこの曲、そのフレーズが唄われた直後にパステルカラーの照明がステージをフワッと包む。
 
単純な〈寂しい・悲しい〉というよりも、虚しさや苛立ち、葛藤やエゴなど
――〈孤独〉という理念を通して、単色の感情ではなく、様々な色が混ざりあうことで濁った感情を唄ってきたニコ。
そんな彼らが報われる場所はやはり〈孤独〉であり、それでいいのだと言ってもらえているかのようなラストシーン。
その光景がとても美しくて思わず涙腺が緩んだ。
 
 
 
そして「Heim」「バイシクル」と温かなアコースティックパートのあとには「Mr.ECHO」へ。
前2曲のアレンジを引き継ぐかのように光村のヴォーカルを中心としたネイキッドなサウンドの序盤。
曲が進んでいくにつれて重なっていく音の数が増え、古村/対馬の叫ぶようなコーラスも加わり、ラストにはきらびやかなサウンドに。
 
1人の人間の小さな想いをバンドが表現し、それを受け止めたオーディエンスが高々と腕を上げる。
〈孤独〉が讃歌に変わったその瞬間に、ニコが〈孤独〉を唄う意味がギュッと詰まっているかのような気がした。
 
 
 
 
 
古村がコードを爪弾き続け「Mr.ECHO」の余韻がじんわりと響くなか、それをぶっ壊すように対馬がシンバルを4発叩く。
これまた彼ららしい、綺麗に収まりはしないアレンジから「ローハイド」へ。
 
リリース当時から物議を醸していた「手をたたけ」で天井から下がる日の丸を楽しそうに指さす光村を見ていれば「〈無敵の太陽〉ってこれか……!」と、もはやこの日のために生まれた曲にすら思えたし、やけに板についたアイリッシュサウンド「天地ガエシ」で何度も叫ばれる〈リベンジ〉という単語はこの場所でこの上なく光り輝いているし。
 
紙ふぶきが高らかに舞ったラストシーン、その景色と4人が全身全霊で鳴らす音楽を目の前にすれば、今までのニコのすべてがここで笑うためのものだったようにすら思えた。
やはり今日は〈そういう日〉になった。何だかもう、胸がいっぱいだ。
 
 
 
 
 
しかしアンコールで鳴らされたのは「image training」、新曲「TOKYO Dreamer」、ライヴの定番「N極とN極」。
 
スタジオから見た明け方の街の風景を描いたという楽曲、そしてその〈街〉で生き抜く覚悟を唄った楽曲、そして、オーディエンスとの再会を約束する楽曲。
 
 
 
「天地ガエシ」で大団円を迎えたあとには、どう考えても「オープニングテーマ」にしか聴こえないアンコール。
 
光村も「あと5倍はやりたい曲があった」と言っていたし(確かにもっと見せてほしかった面もあると正直思った)、来年には大きな会場でのライヴが控えているらしい。
 
〈リベンジ〉を終えて程なく(というかまだその最中だけど)彼らは既に先を見ている。
「相変わらず生き急いでいるなあ」と少し笑ってしまったけど、何だかそれも嫌いじゃないんだよなあ。
 
 
 
4年前のリベンジを果たしたニコだが、やはり彼らの旅は続く。
いつだって完全に満たされることはなく、旅は続く。
 
これからも眉間に皺寄せるだろう。
これからももがいたり悩んだりするだろう。
これからも〈孤独〉を唄い続けるだろう。
そして――
 
「ひとつクリアしても次が出てきて、一生リベンジなんです」「引き続き俺らのリベンジに付き合ってください!」
 
これからも〈リベンジ〉し続けるだろう。
 
憑き物が取れたかのように爽やかな笑顔を浮かべる4人。
ステージへと降り注ぐ熱い拍手。
 
 
おめでとう。
 
ニコはここから、また始まる。そして、続いていく。
 
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  ▼爽やかなアイリッシュサウンドに乗せて〈リベンジ〉を唄った「天地ガエシ」 ※今年6月のライヴ映像

  



▼アンコールで披露された新曲「TOKYO Dreamer」 8/20(武道館翌日)にリリースされた





▼「バケモノ」(「TOKYO Dreamer」のc/w)