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蜂須賀ちなみの日記帳

ライヴレポート|2015.07.19 NICO Touches the Walls @国際フォーラム

久々にライヴレポート(というかライヴの感想)更新。

今年5月~7月に行われたNICO Touches the Wallsのツアーがとても良かったよ、という話です。

何でこんなに良いツアーだったのかということを中心に、いろいろと感じたことをまとめてます。

 

 

註:ライヴを観て自分が考えたこと・感じたことをメインに書いています。

詳細な演奏・演出・MC等の内容を知りたい方は、ナ○リーなどを見ていただけたら、と思います。

 

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〈間違ってた なんか全部間違ってた/虚しさも 悲しさも〉

 

開口一番そう唄う“まっすぐなうた”は、NICO Touches the Wallsの懺悔だった。このバンドには珍しいほどド直球なパンクビートに跨って、駆け抜けるようでいて、刻み込むような3分強。繰り返される〈間違ってた〉。ツアーファイナルが終わって半月ほど経った今、この曲を聴きながら思う。『まっすぐなツアー』とは、その懺悔に込められた想いを各地のファンに届けるため、顔を突き合わせて伝えるためのものだったのでは、と。

 

1曲目“雨のブルース”は光村龍哉(Vo/Gt)の弾き語りから始まった。丸腰状態のその歌はあまりにも無防備で、そこに寄り添うように加わるバンドの音もまたとても優しい。聴き手の懐にそっと入っていくような、同時に自らの柔らかい場所を曝け出していくような冒頭。彼らがオーディエンスとの対面を丁寧に、しっかりと行おうとしているのだということ。それから、こういう静かな曲でライヴを始めても大丈夫なのだという自信。その2点が読み取れた幕開けだった。本人たち曰く、今回のツアーは昨年2月にリリースしたベスト盤『ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト』のレコ発という位置づけらしいが、この日の選曲、ベスト盤の曲をセットリストに組み込むという意味で〈ベスト〉なものではなく、今のバンドの魅力を引っ張り出す曲だったり、バンドの純粋な好奇心・探究心が輝く曲を選ぶという意味で〈ベスト〉だった印象。そうでなければ、“かけら-総べての想いたちへ-”“エトランジェ”“君だけ”“Diver”という、新旧の曲を織り交ぜつつディープな表現力で魅せるあのパートはありえなかっただろう。後のMCで光村は「今回のツアーはホールもライヴハウスもいろいろなところでやってきたけど、場所を選ばずに自分たちの音楽を届けられるっていう自信がこの2年間でついた」という趣旨の発言をしていたが、これは曲についても同様で。A面曲だろうとB面曲だろうと、タイアップ付きの曲だろうとそうではなかろうと、等しく高い熱量で演奏する自信も近年で手に入れたんじゃないかなと思う。ニコも、ニコのファンも、どちらかというと〈B面フェチ〉的嗜好であるということは十分知っているが、そんなこと、もう拘る必要のない段階に来ているんじゃないかな、とも思う。

 

さて、「ニコってこんなに楽しそうなバンドだったっけ?」というのがこのツアーでの最も大きな感想である。スクリーンに何度も映し出される4人のクシャクシャな笑顔。お互いの楽器がぶつかりそうなほどの至近距離で、戯れ合うように音を合わせていく姿。いつにもまして饒舌な光村のMC。先に書いたように、この『まっすぐなツアー』は、旅の目的が最初から明確に在る、初めから答えが分かっているツアーだった。だからこそ、今のバンドの風通しの良さが何の衒いもなく表れたのだろう。例えば、夢のきらめきを唄う“ホログラム”はリリース当時よりも何だか若々しく聞こえたし、10代の頃の光村が作った“TOKYO Dreamer”は確かな説得力を持ちつつも非常に瑞々しかった。さらに、バンドが今「面白い」と感じることを全部盛りしたような新曲“いいこになっちゃいけないの”、CD音源とは大幅にアレンジの異なる“夏の大三角形”、アコースティック編成にて4人のドラムリレーや光村のブルースハープ・ソロもあった“手をたたけ”“THE BUNGY”――と、自由度の高い演奏。その開放感に、変な話、4人は今がいちばん若いんじゃないかと疑いたくなってしまった。そして、開放感に満ちているからこそバンドの地力が惜しみなく発揮されるし、それがバンド人生の中で自ら手繰り寄せた〈正しさ〉――不器用でも捻くれてても今の姿を曝していくんだということ――へダイレクトに繋がったりする。「唄っていて本当に気持ちいいんですよ」と会場・国際フォーラムの音響を味方につけた光村の歌をはじめ、とにかく、バンドの演奏がすこぶる良かった。対馬祥太郎(Dr)のビートにバンドの手綱をガッシリ握るような頼もしさがあるからこそ、多様な音楽ジャンルに果敢に挑むこのバンドにも1本太い芯が通る。坂倉心悟(Ba)のようにフレーズ一つひとつがここまで唄いまくっているベーシストはなかなかいないよなぁと、改めて存在感の大きさを思い知らされる。時には叙情的に、時にはスーパーメタリックにソロを炸裂させる古村大介(Gt)のプレイにはいつになく感情が乗っかっていて、顔面で演奏してるんじゃないかってくらい、その表情も豊かだった。

 

「このツアーは20代最後のツアーで。20代はずっとこのバンドに捧げてきたし、集大成のようなツアーにしたいと思ってました。でも今まで自分が100%理解していたと思っていた曲には実はこんなメッセージが隠れていたし、こんな良いところもあったし……そういうのをアコースティックアルバム(『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』)のレコーディングぐらいから気づきました。そしたら今までの自分たちの曲、全部ひっくり返したくなっちゃって。磨けば光る曲がたくさんあった。30代は成熟の年代だと思ってたけど全然そんなことなくて、もっと進化せねばならん、という気持ちでいます。観ていて飽きない、聴いていて飽きないバンドにこれからもなっていこうと思ってます。だから、長い付き合いにしようね」

 

真面目なMCの最後に、光村は照れ臭そうに笑っていた。

 

そして——

 

〈間違ってた なんか全部間違ってた/虚しさも 悲しさも〉

 

“まっすぐなうた”。ステージを見つめるオーディエンスの視線に〈直球で放たれたものは正面から受け止めよう〉という覚悟めいたものを感じたツアー初日公演(5/21@豊洲PIT)に対して、この日の客席にはたくさんの笑顔が咲いていた。ニコから聴き手に向けての懺悔の歌は、このツアーを経て、これから続く〈長い付き合い〉を約束するための歌へと成長した。そんなことをヒシヒシと感じさせられる、感慨深い風景だった。ステージへと降り注ぐ拍手喝采を浴びながら、光村がポロッとこぼした「生きててよかった……」という言葉。このツアーの充実度を、今のバンドの充実度を、これほどよく表すものなどないかもしれない。〈君に光を射すために〉とニコが唄う日が来るなんて思いもしていなかったけど、確かに、ここには光が在る。〈だけど俺は笑っていたい/歌っていたい〉とニコが唄う日が来るなんて思いもしていなかったけど、確かに、今バンドは君と共に笑っている。

 

「いいツアーだったなぁ……」と思っていたのも束の間、いつもながら、鮪のように止まれないバンドの生態に笑ったのは私だけではないはず。この日、終盤では9月発売のシングル表題曲“渦と渦”が披露され(題名からの印象に反して、清々しい曲だった。やはり今はそういうモードなのだろう)、既に発表されていた年末の大阪城ホール公演に加えて、年始には3度目の武道館公演に挑むことが発表された。「もう武道館を当たり前にやってやろうと思います!」と光村。〈3度目の正直〉という言葉もあるが、来るその日には、バンドの中身を覆い隠す重たい鎧からも、大義名分という名の鎖からも、完全に解き放たれた状況で臨むことになるだろう。天高く上がる日の丸はきっと、今のニコによく似合うはず。

 

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▼まっすぐなうた/NICO Touches the Walls

 

w

ww.youtube.com

 

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[SET LIST]

01.雨のブルース

02.TOKYO Dreamer

03.ローハイド

04.ホログラム

05.バイシクル

06.N極とN極

07.かけら-総べての想いたちへ-

08.エトランジェ

09.君だけ

10.Diver

11.いいこになっちゃいけないの

12.Mr.ECHO

13.夏の大三角形

14.ニワカ雨ニモ負ケズ

15.まっすぐなうた

16.渦と渦

17.天地ガエシ

 

EN1.手をたたけ

EN2.THE BUNGY

EN3.口笛吹いて、こんにちは