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蜂須賀ちなみの日記帳

ディスクレビュー|スキマスイッチ『スキマスイッチ』

こちらで告知した通り、以前SOGO TOKYO「LIVE & INFORMATION」にて、2014年12月に発売されたスキマスイッチのアルバム『スキマスイッチ』のレビューを書かせていただきました。
で、ありがたいことに私はこのフリーペーパーに何度かレビューを寄稿しているのですが、特定のライブ会場でしか配布されないものなので「読みたいけどゲットできない」という声をよくいただいていました。

そこで私ができることとして考えたのが「配布期間が終わったらブログに同じ作品のレビューを載せよう!」ということです。
ただ、全く同じものを載せるのもつまらないので「論旨だけは同じ」なロングバージョンでお届けします。



ということで、追記にてスキマスイッチスキマスイッチのディスクレビューを。


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(2014/12/03)
スキマスイッチ

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2013年にデビュー10周年イヤーを終えたスキマスイッチ。47都道府県をたった2人の編成で廻ったツアー。ベストアルバムのリリース。それに伴うアリーナツアー。オーケストラを率いての武道館公演――2013年の様々な出来事を経て、2人は何度も自身の楽曲や〈スキマスイッチ〉という存在そのものと向き合うこととなっただろう。

 
そしてデビュー11年目にして初のセルフタイトル作品である。この報せを訊いたとき、どこか天邪鬼な2人のことだからあえて〈スキマスイッチ〉の新たな一面を提示したうえでそう名付けたのだと思った。そうやってまた私たちを驚かせるのだと思っていた。だからこのアルバムを初めて聴いたときに呆気にとられてしまった。全然そんなんじゃない。ここにあるのは紛れもなく〈スキマスイッチ〉の本質だ。
 
破壊衝動を叫びまくる「ゲノム」。アコースティック調の音色と軽いタッチの言葉遊びが心地よい「life×life×life」。コテコテの歌謡ファンク「蝶々ノコナ」。壮大なスケールの「星のうつわ(album ver.)」。バリエーションの豊かさはこのアルバムの大きな特徴のひとつであろう。とはいえ、これまでのアルバムだって収録曲の曲調は幅広かったし、様々な楽器の音色がそれらを惜しみなく彩っていた。ただ、今回は「こっち!」と決めたらもうその方向にとことん振り切れている。とことん振り切れるから、表現の純度が段違いだ。特に、「パラボラヴァ」のように〈君〉に出会えた喜びをストレートに表現したラブソングにはファンも驚いたかと思う。表面的には恋や愛を唄っていようとも、実は毒が入っていたり、どこか皮肉めいていたのが今までのスキマスイッチのラブソング。振り切らなければ、今までの彼らのままだったら、確実に生まれなかった曲であろう。そういう明らかに〈今までのままだったら生まれなかった〉曲がこのアルバムにはたくさんある。
 
破壊衝動を叫んだ直後に両手を広げてラブソングを唄う、なんてことが虚飾も違和感もそなく成立するのは、2人ならば〈スキマスイッチ〉になるのだという自信と覚悟があるからであろう。どんな楽曲を演奏しても、自分たちがそれを楽しみながら表現すれば〈スキマスイッチ〉のものになるのだという自信。どんな楽曲でも〈スキマスイッチ〉として請け負ってみせるのだという覚悟。きっと今の2人にとっては、パブリックイメージを否定したいとか、歌が上手いと思われたいとか、センスを見せつけてアッと言わせたいとか、もうそんなのどうでもいい。2人の音楽家から個人的な矜持を引き算すれば、残るのはユニットとしての本質だ。だからこのアルバムを聴いて、初めて〈スキマスイッチ〉の正体を真正面から見せてもらえている気がした。まあ、長く続いているユニットに対して今更こんなことを言うのも可笑しな話だけど、ね。
 
デビュー10周年イヤーを終えて〈スキマスイッチ〉は削ぎ落とされ、同時に2人の自由度は高くなった。……うん、矛盾してる。でもそれが成立しているのがこのアルバムだし、だから私は「やっぱり面白い人たちだな」と思わず笑ってしまった。デビュー11年目にして、正真正銘、堂々のセルフタイトル。私は今までのなかでこのアルバムがいちばん好きだ。
 


#favorite track
10曲目「SF」



★2曲目「パラボラヴァ」




★5曲目「Ah Yeah!!」




★9曲目「星のうつわ」