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蜂須賀ちなみの日記帳

コミュ障ライターが「コミュ障は治らなくても大丈夫」を読んでみた

今日は珍しく本のレビューを。ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんの体験談および実践術が、水谷緑さんの手によりコミックエッセイとなった作品「コミュ障は治らなくても大丈夫」について。

 

 

 

まず初めに、そもそもなぜこの本を読み始めたかという話を軽く。誰にも言ったことがないと思うけど、もしも自分がもう少しまともに喋れる人間だったら、あともう少し女性らしくて綺麗な声だったら、私、本当はラジオパーソナリティをやってみたかったんですよ*1。で、「今ラジオで喋る仕事をしている人でいちばん好きなのは誰ですか?」ってなったときに最初に思い浮かぶのがよっぴーさん(敬意をこめてあえてこう呼びます)。出しゃばることなく隠れすぎず、オープンなのに毒がある。相手の話を引き出しながらトークとしてまわせる人。学生時代から周囲にも〈コミュ障〉とか〈人見知り〉と言われながら笑われてきた自分にとって、よっぴーさんは私が「ほしい」と思う要素をすべて持っている人だった。それで、尊敬という感情を通り越して、もはや別の世界に住んでいる人だと思っていたんです。

 

しかしその印象が変わったのが著書「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」を読んだとき。「ニッポン放送の大人気アナウンサー・吉田尚記は、些細な会話すらままらならないコミュ障だった!」という触れ込み通り、彼は元から人と会話をすることが得意だったわけではなかった。〈私がほしいものをすべて持っている人〉という書き方をしたけど、〈持っていた〉わけではなくて、必死に〈手繰り寄せた〉ものだったんだなということが、この1冊を読んで分かりました。異世界に住んでいる人という印象が変わって、何というか、私のなかのヒーローのような存在になった*2。勝手にだけど。

 

 

 

 

前置きが長くなりましたが、今回紹介したのは「コミュ障は治らなくても大丈夫」の方です。「なぜ、この人と~」と同じように基本的にはよっぴーさんの経験談+実践術という構成だけど、今回はコミックエッセイだという点が大きな違い。水谷さんのかわいらしいイラストによって(特に表情の描き方が秀逸!)コミカルに描かれているけど、よっぴーさんが「日本一忙しいアナウンサー」になる以前の、「日本一絡みづらいアナウンサー」と言われてしまった時期のエピソードなんて結構悲惨だったりします。でも、巷に溢れる〈コミュニケーション必勝術〉的な精神論ではなく、〈具体的に何をすればいいか〉を書けるのは、ご本人にトライ&エラーを繰り返しながらやり方を掴んできた経験があるからこそ。タイトルには「コミュ障は治らなくても大丈夫」と書いてあるけど、それは開き直ってもいいんだぞという意味ではなくて、自分の性質を受け入れたうえでどういうふうに扱っていくか、という視点で話が展開されています。コンプレックスと上手く付き合いながら、今よりも少し生きやすい環境を作っていこうか、という話。

 

だからこれを読んですべてを鵜呑みにするのではなくて、私たち読者も自分なりにトライ&エラーすることが大事なのかな、と。ということで、以下、人見知りコミュ障ライターによる実践エピソード(インタビュー編)を紹介。本に載っている内容を全部書いてしまうのはよろしくないので、少しだけ。

 

 

 

・先入観をぶつける
〈人は誤った情報を訂正するときにいちばんよく喋る〉という特性を活かして、自分のなかにある先入観(あるいは、パブリックイメージ)をそのままぶつけてみる、という方法。外見や曲などから読み取れるイメージと、その人本来の姿との間にギャップがある場合、それにまつわる話は大抵面白いし、この「先入観をぶつける」という行為によってそういうエピソードを引き出しやすくなる。今思えば、以前の私は、取材対象の魅力を読者に伝えたい→いちばんの理解者にならなければならない と勝手に気負っていた気がするし、そのせいで質問に柔軟性がなかったような気がする。例えばその先入観が誤解だとしても「意外ですね!だからこそあなたのことがもっと知りたいんですよ!」という気持ちを素直に態度で示せばいいんだ、と。

 

・会話は「2秒空けない」ゲーム
キーになる質問や突っ込んだ話をしている場面以外では意識的に2秒以上間を空けないようにしてみたけど、それだけで会話がどんどん転がるようになったし、「1時間ならここまで訊けるかな」と最初に想定していたところよりも遠くに行ける(=訊きたいことが訊ける、深い話ができる)頻度が増えた。基本的にインタビューには制限時間があるため、これはかなり有効。

 

・「なぜ」ではなく「どうやって」
「なぜ」という言葉を使うと、相手が戸惑ったり回答が抽象的になる場合があるため、「どうやって」という言葉を使ってその考えや行動に至った過程を訊く、という方法。実際やってみて確かに「どうやって」と訊いたほうがズレた回答に繋がることは少なくなった実感がある。でも、これって要は「どうやって」という言葉を使って「なぜ」の内容を訊いているということなんですよね。だからまだ難しい。つい近道して「なぜ」と訊きたくなってしまう。少しの我慢が大事。

 

 

 

私自身、初対面の方と話すときに異様に緊張してしまうタイプで、「相手とこれからも良いお付き合いをしていきたい」「失敗して嫌われたくない」という意識が根本にあるという自覚があります。だからインタビューどころかライヴ後の関係者挨拶等でも毎回吐きそうになってしまうほど何かもうダメで、どれだけ経ってもそれは治らない。それでも知りたいことがあるし、築きたい関係性がある。そもそも私の仕事には「何でこういう音楽が生まれたんだろう」という興味、つまり音楽を作る/演奏する人自体の内面が気になっていてそれを探りたいと気持ちが根本にあるわけで。そうやって他人と向き合わなければならない仕事をしているならば、自分自身のコンプレックスと向き合うことから逃げちゃいけないんですよね。〈自称コミュ障〉がいちばんダサいのは分かっているけど、それでも、というか。

 

何か大切なことを思い出したな、やっぱりよっぴーさんは私のヒーローなのか、と思いつつ。長くなったのでまとめると……今回はインタビューという限定的な場面について書きましたが、この本に書いてある実践術は日常会話にも活かせる内容ばかりです。私と同じように〈コミュ障〉で悩んでいる人はこの本をぜひ読んでいただきたいです。コンプレックスとともに生きていった経験が、いつの日かあなたの個性に変わるかもしれない。そういう可能性の存在を教えてくれる1冊だと思うので。

 

 

 

 

 

*1:未だに「誰かと対談型Podcastとかやってみたいな~」と思っているしちょっと諦めてないんだけど

*2:でもやっぱり〈尊敬〉とはどこか違って、上手く形容できないけど〈何となく近寄ってはいけない存在〉というか。ライヴ会場等でよく見かけるのですが、恐れ多いので、いつもできるだけ遠くに離れるようにしています