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蜂須賀ちなみの日記帳

2016.8.19 Ivy to Fraudulent Game@渋谷CLUB QUATTRO を観た感想

先日、Ivy to Fraudulent Game*1のワンマンにお邪魔してきました。

 

今年4月に初の全国流通盤『行間にて』をリリースした彼らは、全国ツアーを開催。その追加公演である渋谷CLUB QUATTROワンマンがこの日でした。雨のパレード、mol-74、PELICAN FANCLUB、SHE’Sなどツアーに招いたバンドのセレクトが絶妙だったり、実際『行間にて』を聴いて惹かれるものがあったり、歌詞カードが右綴じ縦書きでちょっと感動したり、このバンドは私のツボをついてくるなあと何となく感じていたのですが、やはり良いなあと再確認できた夜でした。

 

 

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というか、先ほどサラッと書いてしまいましたが、『行間にて』というタイトル、めちゃくちゃ良くないですか? 私は〈言葉にならない感情のなかで待ちあわせしましょう〉ぐらいの意味で捉えていて。溢れてしまう何かがあるから歌う、楽器を鳴らす、そうやって音楽に変える、というミュージシャンとしての根底部分を初の全国流通盤のタイトルに据えた。そういうこのバンドのセンスが素敵だなと思ったんですよね。

 

実際にライヴを観てみて確かに〈行間にて〉を体現しているバンドだなあと感じる場面は多数。ポストロックやシューゲイザーに歌心あるメロディを重ねたアイビーの音楽は、音源を聴いた段階だとやはり「綺麗」という印象が強いけど、生だと粗さがあるというかささくれ立っている面がある。綺麗な歌を綺麗に聴かせることを重視していないのは、〈今この場所〉での感情を大切にする気持ちがあるからこそなのでは。

 

あと、若いバンドなのに引き算の演奏をしっかりとできる人たちなんだなという感心も。正直バンドのライヴに行くとバラードで「音大きすぎる!もっとやわらかくしてほしい!」と思ってしまうこともあるけど、この日のライヴではそう感じたことが一度もなかった。あとこれはアップテンポの曲にも共通する部分なんだけど、文脈のない、唐突な盛り上がりみたいなものがない。表現にちゃんと情緒があるんですよね。だからこそ聴き手一人ひとりが抱くどんな色の感情のことも尊重してくれそうだし、自分のなかの〈言葉にならない感情〉を委ねてもいいかもしれないなんて思えたりする。序盤の何曲かを演奏したあと、寺口さん(Gt/Vo)が「周りを気にせず勝手に楽しんでいってください。俺たちも勝手に楽しみます」と言っていたのも印象的だった。

 



そもそもフロントマンが作詞作曲を担当しているわけではない*2ということもあって、誰かひとりがひたすら目立つバンドではないというのも彼らの特徴のひとつ。寺口さんはちょっと不器用で(←それがかえって良い)、純粋な感情や衝動をそのまま出しつつも*3、曲によって曲の魅力をどう引き出すか/自分の歌のどの面を魅せるべきなのかを考えながらやろうとしている人。メインメロデイもカッティングもアルペジオも流麗に奏でる大島さん(Gt)のフレージングはこのバンドの独自性のひとつだと思うし、それに対してカワイさん(Ba)の弾く低音は輪郭がハッキリしているからメリハリがあって良い。音源の段階から面白いなと思っていたんだけど、福島さん(Dr)はリズムパターンが豊富なので音を耳で追うのがとても楽しいです。

 

テクニカルな演奏面と豊かな歌心と。2点が共存するアイビーサウンドは、これから先もっと極まっていくことかと。

 



閃光ライオット2013のファイナリストに選ばれてから注目を集め始めたこのバンドは、自主制作盤のみしかリリースのなかった2015年時点でTSUTAYA O-Crestにてワンマンを開催&ソールドアウト。そして今年に入って待望の全国流通盤をリリースし、レコ発ツアーのファイナル(ワンマン)@TSUTAYA O-WESTも早い段階でソールド。で、私が行ったクアトロは追加公演だったわけです*4。そんな感じで、昨年から今年にかけて人気急上昇中というタイミングでの、今。

 

メンバーのMCによると、今回のツアーはアイビーにとって「音楽を通せば大人とも分かり合えると知った、人生が変わったツアー」だったらしく。そもそもこの追加公演もツアーの最中に「追加公演やりたい」という話が出て、それからスタッフが動いて会場を押さえた……というエピソードがあったのだそう。つまり、本人たちも「今行くしかねえ」的な実感がある時期なのではと思います。

 

「今日もステージに闘いに来ました。目の前にいるヤツは全員味方、それでも俺は闘いに来ました。みなさんの想像を超えに来ました、自分の想像を超えに来ました。俺は曲を書いていないけど真ん中に立っている。真ん中で闘っている! 食ってかかるし、炎上するし、敵を作るようなことをこれからも言うかもしれない。でもこの4人ならどこへても行ける気がする。俺たちは闘う。ロックバンドだから」

 

そんな寺口さんの言葉のあとに演奏された「青写真」で浴びたヒリヒリするような衝動と、「アイドル」のキメのたびに音がグサグサ刺さってくるような感触はおよそ1週間経った今でも忘れがたい。目まぐるしく様相を変えていく音の激流が、〈今この場所〉から〈次〉を目指して闘いを続ける姿をそのまま体現していく。変拍子の曲も多いし、基本的に捻くれた展開をした曲ばかりなのに、それでもバンドのビートに自分の鼓動が同期していくような感覚に陥ってしまうのは、目の前の音楽から4人の在り方がリアルに伝わってくるからでしょう。この終盤、もうずっとハイライトみたいなもんで、正直「うわ、これはもう降参です」ぐらいの気持ちで夢中になってしまいました。素晴らしかった。

 

「俺たちはこれからも変わっていくけど、よかったらこれからもついてきてください。次の曲でこのツアーを終わりにします」

 

アンコールラストの「故郷」を演奏する前、わざわざ「終わりにする」という言葉を使ったのは、やはり〈次〉に進むためだと思う。まだ20代前半、若い彼らが闘いの最中で何を見つけていくのか。その過程を、追いかけていきたいと思いました。

 

 

▼Ivy to Fraudulent Game「she see sea」


Ivy to Fraudulent Game / she see sea [music video]

 

 

 

 

*1:最近やっと正確にバンド名を書けるようになりました。むずい……

*2:作詞作曲は福島さん(Dr)担当です

*3:バンドを組むのはアイビーが初めてということが強く影響しているんだと思う

*4:この日もソールド超満員だった。勢いがすっごいです