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蜂須賀ちなみの日記帳

歳を重ねるということ

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2月の終わり頃、高校生にインタビューされる機会があった。彼女はとあるバンド(仮に「バンドA」とする)のファンで、私がそのバンドについて取材した時の記事を読んで、話を聞いてみたいと思ってくれたらしい。

 

彼女は現在新聞部に所属していて、将来、音楽の素晴らしさを伝える仕事に就けたらなあと考えているとのこと。私が高校生の頃なんて将来の夢なんてなかったし(弁護士になるつもりではいたがそこに自分の意思はなかった)、学校の中の狭い世界しか見られていなかったから、将来を見据えて自発的に行動を起こすなんて、すごいなあと率直に思った。

 

それにバンドAは、自分の感情に素直であれ、受け身になることでそれを殺してしまうな、ということを鳴らしてきたバンドである。だから、ファンはバンドの鏡なんだなあと改めて思ったし、彼らの鳴らすロックンロールがこうしてしっかり伝わっているのだということを知られて嬉しかった。

 

 

 

世界で一番共感できる歌詞がBIGMAMAの「Paper-craft」である私は、自分が取るに足らない人間であることを自覚している。だからインタビューされながら「うわ、この話何も面白くないだろうなあ」と思っていたわけだけど、終わったあと、同伴していた顧問の先生に「いや、名言たくさんありましたよ~」と言われてこそばゆい気持ちになった。

 

その名言(って自分で言うのめっちゃ嫌だけど。笑)のひとつが「型を知らなければ型破りになれない」という言葉だ。どうやって文章の書き方を勉強したのか、という質問に対する回答を話していた時に出た言葉だ。

 

私は「あの時自分の感じたことを代弁してくれるライブレポートがどれだけ探しても見つからない」という絶望感から文章を書くようになった人間だった。何を読んでも「何か違うんだよなあ」と思ってしまうけど、いったい何に違和感を抱いているのかは自分でも分からない。だから既存の記事を片っ端から読み、ライターごとに手癖を分析し、「こういうのを書きたい」~「こういうのは書きたくない」の段階別で分類&そう判断した理由を言語化することによって、自分が抱く違和感の正体を明かそうとした。それをさらに掘り下げ、独自の語法を取得することに繋げていった。

 

以前、某バンドマンから「蜂須賀さんは○○(←媒体名)でよく書いているのに文章が○○っぽくないですよね」と言われて、その時は大変お世話になっている○○の編集者が隣にいたからヘラヘラ笑うだけで済ませたんだけど、それは本当に言われた通りで。私の文章は元来、カウンターでありアンチテーゼである。

 

――というエピソードを語るうえで、「型を知らなければ型破りになれない」という言い方をした。

 

 

 

話を戻すと、高校生の、自分より10近く歳の離れた人と話してみて思ったのは、いよいよこちらが「型」を提供する側になりつつあるのかもしれないなあ、ということだった。そしてそれは、大人になることとイコールなのかもしれないなあとここ最近考えている。

 

 

 

インタビュー中、いろいろなことを聞かれたからいろいろなことを話した。さっき挙げたような「どういうふうに文章の書き方を独学したのか」とか、「初仕事をゲットするために何をしたのか」とか、「仕事をする上での譲れないこだわりは何なのか」とか。

 

しかし私のやり方とまるっきり同じようにしていたらすべての人が上手くいくのかと言えば絶対にそんなことないし、聞かれたら答えるが、それを唯一の正解だと信じてほしくはない。あなたにはあなたの正義があり、それは私の正義とは100%一致しない。それに、あなたの人生にさして関係のないような、部外者に言われた言葉なんて真に受けてはいけない。よく分からないやつのよく分からない言葉に、従順になどなってはいけない。

 

これが私の中の大前提だ。

 

だからこそこれまで\ライター志望の人、気軽に質問ください/みたいな窓口の開き方をしてこなかったし、「若い世代の台頭を後押しできる場を一緒に作りませんか?」的なお誘いもすべてお断りしてきた。

 

後進を育てる、みたいなことに対しては未だに抵抗がある。だが同時に、今は、現在の自分が抱く孤独感・反骨精神は若者の特権かもしれないとは思っている。それならば必要悪というか、「んだよ、適当なこと言いやがって」とか「いや、私だったらこうするんだけどなあ」みたいな燃え方をする人たちの燃料になることが自分らしく、下の世代にできることなのかもしれないと思った。また、そういう役割を担うべき年齢に差し掛かりつつあるのかもしれないなあとも思った。


20代もとっくに後半に差し掛かっていて、それでも大人になるってどういうことなのか、未だによく分かっていなくて。そんななかで何となく、ようやく一つだけ、見えたような気がする。

 

 

 

因みに、冒頭で触れたバンドAは、ライターを仕事にしようかとモゾモゾ動いていた頃、当時お世話になった人に連れて行ってもらったライブハウスで出会ったバンドだ。ライターとしてスタートラインに立つタイミングで一緒に成長していけるようなバンドを見つけられたら最高だよなあと思って、同世代の良いバンドを探していたなかで、ライブを観て、すぐにピンときた。彼らが武道館のステージに立ち、そのライブレポートを書く日が来るまではせめてライターを続けよう。勝手に、そう決意した。

 

その夢が叶うのはまだ先になりそうだけど、先日聴いた彼らの新譜が最高で、この人たちと一緒に仕事をさせてもらえているならば、もっとカッコいい人間にならなければならないなあと思った。そういう人たちと並走できていることが今の私にとっての誇り。これは大人になったからこそ手に入れられたご褒美なのかもしれない。