ネタバレ問題

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タイミング的なことなので単なる偶然なのだが、特に今年に入ってから、ネタバレに配慮して書かなければいけないライヴレポートの仕事をする機会が多い。ネタバレに配慮しなければならないライヴレポートとはつまり、ネタバレ解禁のタイミング(多くの場合はツアーファイナル)より以前に掲載される、ツアーファイナル以外の日のライヴレポートだ。演奏曲や演出、MC、ステージセットなどについて、事前に先方から「これは書いてもよい/これは書かないでほしい」的な指定があるケースがほとんど。因みにここで言う先方というのは、メディアサイドではなくアーティストサイドのことを指す。

 

 

 

以下、「私の場合は」という前提で書きます。他のライターがどうかは知りません。

 

そういうレポを書くのは大変なのか、それとも普通のレポとさほど変わらないのか、というところは正直ライヴを観終えるまで分からない。「このライヴはこういうライヴだった」「それならば伝えるべきはこれだ」という結論はライヴを観始める前に出すことができないからだ。当たり前だが。

 

その「それならば伝えるべきはこれだ」が原稿を書く上での柱になるわけだが、その柱の根拠となる部分にはしっかり触れておかないと、抽象度の高い、ふわふわの原稿になってしまう。例えば「ニューアルバム収録曲の存在により、ライヴ全体がさらに良くなった」という話をしたいのならば、ニューアルバム収録曲がどのように演奏されていたのかを書いたほうが説得力のある原稿になるでしょう。周りを固める土がゆるゆるだったら、柱はやがて倒れてしまう。

 

ライヴを観ながら柱を考え、土として利用できそうな場面を判断する。そのなかで生まれる自分の中の「これは書きたい/これは別に書かなくてもよい」が、先方から提示される「これは書いてもよい/これは書かないでほしい」とどの程度一致するか、で書きやすさが変わる。土として利用する必要のある曲の数はライヴによって変わるし、何だったら、無理に曲名を出さなくても十分であるケースもある。

 

しかし、そこを擦り合わせることができればすべて解決なのかというとそうでもない。なぜなら、そこにはライターの都合とアーティストサイドの都合しか存在しておらず、今後ツアーへ行く予定だがまだ行けていない人への配慮がないからだ。

 

「このライヴはこういうライヴだった」「それならば伝えるべきはこれだ」というふうに考えていくと、必然的に、そのライヴの核(その核が的外れである可能性もあるけども)に触れるような内容にどんどん近づく。そうなると「いや、それを言ったらおしまいじゃない?」というポイントに自分でも気づかずに触れてしまう危険性が高くなるが、ここで気をつけなければならない。例えば、「カメラを止めるな!」と明日観るつもりだと言っている人に、あの作品の仕掛けについて先に教えてしまうのはタブーでしょう。スペースをいただいて取材をさせてもらっているライターよりお金を払って観に来た観客の方が偉いに決まっている。だから自分の脳内にはライターとしてのOKNGラインのほかに、観客としてのOKNGラインを設けなければならない。そのうえで、観客としてのOKNGラインを、ライターとしてのOKNGラインよりも優先させなければならない。

 

ネタバレ問題は非常にデリケートだ。なぜなら、ひとつの情報をネタバレと捉えるかどうかは人によって違うからだ。ひとつのレポを書く場合、ライターは私自身ひとりだけであり、アーティストサイドの意向もひとつである(もちろん最初はチーム内で意向がバラバラな可能性もあるが、こちらにオーダーする段階になったらさすがにひとつに固められている)。しかし、観客の数は未知数、∞だ。こちらがどれだけ配慮しようとも、すべての人に納得してもらうのはまず無理である。

 

以前、「曲名はひとつも出さないでください」「MCにも一切触れないでください」「ステージセットや演出もダメです」というオーダーがあり、いったい私に何を書かせたいのだろう、と疑問に思った。未知数である観客すべてをカバーしようとするとそういう無理が生じてしまうのだと思う。

 

だが考えてみてほしい。ライヴレポートとはそもそもライヴの内容をレポートするための記事である。また、ネタバレのリスクを冒してまでやるのならば(まあそうでないにしても、だけど)、ほとんど内容のない、薄っぺらい記事にはしたくないでしょう。「誰にとってもネタバレゼロ」なんてものは幻想にすぎない。実体の見えない観客への配慮は、度を越えると、目の前にいる観客に無益な情報を提供することに繋がる。

 

ネタバレ解禁以前に掲載される、ツアーファイナル以外の日のレポを書く時のこだわりとして、私は必ず本文中の、本題を始める前の段階で「ネタバレしています。ご注意を」的な注意書きを入れるようにしている。また、公開された記事をSNSで宣伝する際には「●曲ネタバレしています」と数字で伝えるようにしている。なぜそうするのかというと、ライターになる以前の頃、見たくもないネタバレを見てしまったことがあったからだ。だから自分が書く側になった時にはそういう事故をできるだけ減らしたいと思った。というか、そういう気の遣い方をすることは書き手としてのひとつのマナーだと思っている。

 

とはいえ、繰り返しになるが、観客の数は未知数、∞。どれだけ配慮してもすべての人に納得してもらうのはまず無理である。だから私の言うこだわりとやらも「せめてできることを」ぐらいの対策でしかない。

 

例えば、「1曲ネタバレしています」と言っても、その1曲の重みは曲によっても違うし人によっても違う。ニューシングルのレコ発ツアーでそのシングルの表題曲をやったことを書いた場合、私(の脳内にいる観客としてのOKNGライン)の基準で言うとそれは「まあやるだろうね~」と予測できる範囲であり「大してネタバレにならない」という判断になる。一方、ライヴでめったにやらないレア曲の場合は意外性があるため、よりネタバレ度が高いという判断になる。逆に、このバンドに関してはもうセットリスト云々の次元じゃないよね、っていう人たちもいる。だけどそれは私(の脳内にいる観客としてのOKNGライン)の基準での話。そもそもツアーとかレコ発という概念をよく知らない人もいるだろう。また、単純な曲ごとの好き嫌い、その人にとっての重要度の差異みたいなものは誰にでもあるから「セットリスト云々の次元じゃない」なんて自分自身に対してしか言ってはいけない言葉だと思う。

 

あと、こちらが本文中の早い段階で注意書きを書いているにも関わらず、SNSでその記事を引用しながら「うわ、ネタバレ見ちゃったよ。最悪」という旨の発言をする人もいる(しかもわりと多い)。文章を読めない人に太刀打ちすることは私の仕事ではないから本来は太刀打ちする必要などないのかもしれないが、一応「少しでも事故を減らす方法」として、最近はその注意書きを文章の一番先頭に持ってきていたりする。

 

そう。「少しでも事故を減らす方法」であって「事故をゼロにする方法」ではないのだ。何が言いたいかというと、こちらでできることは限られているのだ、ごめんよ、という話です。SNSのタイムラインに直接書いてある情報を避けるのは難しいかもしれないが、メディアから発信される大抵のレポはワンクリックを挟むはずなので。ライヴレポートとはそもそもライヴの内容をレポートするための記事のこと。摂取する情報/あとで摂取する情報/摂取しない情報の判断および分類はどうかご自身で。