NICO Touches the Walls『QUIZMASTER』とツアー追加公演に対する感想

NICO Touches the Wallsの7thアルバム『QUIZMASTER』を聴いて、この人たちはやっぱりロックバンドだなあ、バンドしているなあと改めて思った。

 

先日リアルサウンドに寄稿した記事では主にサウンド・アレンジ面の話をしたが、あのアルバムを聴いてまず驚いたのは、光村龍哉、すっごい歌詞を書くようになったなあ、ということ。「bless you?」という曲が現時点で一番好きだ。

 

open.spotify.com

 

自分の中にある闇みたいなものをここまで曝け出すの、私にはできないし、多くの人にとって抵抗のあることだと思う。だって他人に知られたくないじゃないですか、自分がどれほど暗い人間なのかということなんて。このように『QUIZMASTER』は、光村が自分自身と向き合いながら制作したことが分かるような、内省的な曲が多い。アルバム全体のテーマは「人生の謎」だという。

 

何年か前のインタビューで光村が、バンドそれ自体よりも曲が後世に残ることの方が大事だという話をしていた憶えがある(引用元が不明瞭で申し訳ない)が、おそらく今はそういう考えではないのだろう。人によっては、いち個人の考え・心情をバンドの曲として演奏する(させる)ことに抵抗があるというソングライターもいるし、こういうパーソナルな作品の場合、自分一人で作り上げるという手もありはしたはず。しかし光村は現状、ソロ活動や楽曲提供といったNICO Touches the Walls以外の音楽活動を行っていないし、実際出来上がった『QUIZMASTER』はあくまでバンドサウンドによる作品だった。それは彼がバンドを、ニコを強く求めているということだと思う。

 

また、アルバム中唯一作詞が対馬の単独名義である「サラダノンオイリーガール?」は「どうして女の子はダイエットをするんだろう?」という非常に素朴な疑問がテーマとなっており、光村ならば絶対に書かないであろうお茶目なワードが並んでいる。対馬特有の明るさというか、この曲のある種の軽さによって、煮詰まり気味だった光村は「肩の力がふっと抜けた」らしい*1

 

バンドを通して自分自身の問題と向き合うことを対馬や古村、坂倉なら許してくれるだろうと、光村は信じている(というと綺麗な言い方すぎるか。「甘えている」の方が正しいかも)。3人は3人で「みっちゃんはこうだから」というのが分かっているというか、それこそがニコの核なのだと認識している感じがある(だからどれだけバリエーションが豊かになろうとも、全曲歌を聴かせるようなアレンジになっている)。互いを補い合いながら、一塊になり、同じ方向に向かうということ。ニコがそのような関係性によって形作られているバンドなのだということが楽曲越しに透けて見えたから、私はこのアルバムに対して、そして彼ら4人に対して、ああ、ロックバンドしているなあと思ったのだ。

 


 


本当は、上記の話を踏まえたうえでサウンド・アレンジ面の話をしたかった。だからここで先述の記事へのリンクを貼ることにする。

 

realsound.jp

 

NICO Touches the Walls TOUR “MACHIGAISAGASHI ’19”」初日公演(3/25)で、光村が「自分のような人間は音楽でしか人とコミュニケーションがとれない」という話をしていたが、裏を返すとそれは、(『QUIZMASTER』収録曲で描いているように)これだけ不安や情けない思いを抱えていたとしても、音楽だけは諦めたくはないのだという意味になる。

 

ニコとアコの並行稼働や、多種の楽器を演奏できるサポートメンバーの導入などを通じて、バンド従来の強みである「アレンジ力」をさらに強化させたこと。そうして曲を演奏する時に採れる選択肢を増やし、ロックバンドとしての可能性を追求してきたこと。その際、人力で演奏することに強いこだわりを見せていたこと。その背景には音楽家としての創作意欲や情熱のみならず、「音楽だけは」という切実な気持ちがあったのではないだろうか。そしてそれは、6thアルバム『勇気も愛もないなんて』で音楽に対する「勇気」や「愛」として定義づけられたものでもある。

 


 

 

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ライブの話に移る。


6月8日に行われたツアーの追加公演=TOKYO DONE CITH HALL公演には、ここ数年、彼らが向き合ってきた「自分たちはロックバンドとしてどう生きていくか」という決意や覚悟がダイレクトに表れていた。

 

1曲目に「2nd SOUL?」が配置されている時点でもう、そうとしか言いようがない。

 

ゴミだらけ 手垢まみれ
残り物みたいな魂
風まかせ じゃ勿体ないぜ
底なしを描け 理想 

 

曲作りに伴う苦悩と、闇に腕を突っ込んで光の断片を手繰り寄せるような感覚、そうして唄い続けていくのだという決意を綴った言葉。「ボヘミアン・ラプソディ」並みのドラマティックな展開も相まって、ライブが始まったばかりにもかかわらず、胸がいっぱいになってしまった。

 

そのあとに続いた『OYSTER -EP-』『TWISTER -EP-』収録曲は、「『QUIZMASTER』以降」を感じさせるようなアレンジに変わっていたし、『QUIZMASTER』収録曲群に関しても、情報量多めな印象を受けた初日公演とは打って変わって、交通整理の行き届いた、洗練された演奏になっていた。人力での演奏にこだわるこのバンドにとって重要な要素となりつつある対馬・古村・坂倉によるコーラスもさらに良くなっている。2012年の「夢1号」リリース時、ライブで同曲のイントロを披露していた時はところどころ不協和音気味になっている感じも否めなかったが、今ではアカペラでハモれるほどである。オフマイクかつ歌声+手拍子のみで披露したアンコールの「3分ルール?」、見事な安定感だった。

 

ニコは『QUIZMASTER』において、「人生の謎」に対して何か答えを言い当てているわけじゃない。モヤモヤした感情がスッキリ晴れるようなことはなく、ひたすら、モヤモヤした感情のまま唄われている。このアルバムは言ってしまえば全然ポップじゃない。しかしその全然ポップじゃないアルバムに対する感想を

 

光村「アルバムは聴いてくれましたか? いかがでしたか?」

 

と訊かれた際、観客は長い長い拍手で応え、光村が「泣きそうになる。頑張って作って良かった」と言って顔をそらしたあとも、いっそ泣かせてしまおうぐらいの勢いでさらに拍手を送っていた。その反応や、この日の会場の空気から鑑みるに、ニコがこういう性格のバンドなのだということ、ああだこうだと悩みながらどうにか生きていくタイプのバンドなのだということはきっとみんな分かっていたのだと思う。そしてその「みんな分かっている」ということに、メンバーももうさすがに気づいている。だからこそ、光村は本質以外の部分を削ぎ落とすような歌詞を書くようになったし、バンドはどんどん大胆かつ自由な音を鳴らすようになった。

 

そんなタイミングだったからこそ、既存曲がどれも核心的に聴こえたというか、伏線回収っぷりがすごかった。

 

『QUIZMASTER』収録曲の歌詞には「夢」という単語が頻出するが、原曲よりも大人びたアレンジに変わった「TOKYO Dreamer」には、叶った夢・叶わなかった夢・その上で生まれた新しい夢の存在を認めながら、孤高の戦いを続けるこのバンドの姿が投影されていた。『QUIZMASTER』のリード曲「18?」の1曲前、という重要なタイミングで演奏されたのは、これまでにもここぞという時に登場する機会の多かった「Broken Youth」。空っぽな理想も紛い物な愛も振り切るような爽快なサウンド、堂々と掲げられた勝利の宣言にグッときた。この日最後の演奏曲が「demon (is there?)」だったのは予想外だったが、この曲、過去のアルバム(4thアルバム『HUMANIA』)の収録曲だということが不思議に感じられるレベルで、今のニコに似合う言葉ばかりが詰まっている。間奏にある古村による長尺のギターソロは溢れ出す光みたいに美しくて、ああ、この曲は救いの曲だったんだなあと感じ入ってしまった。

 

調子の良い時も悪い時もニコのライブにはいつもこのバンドの生き様が映っていたが、それでも、セットリストそれ自体にここまでドラマ性があったのは今回が初めてだったように思う。3年前に言っていた「NICO Touches the Wallsというロックオペラを作ってみたい」という話、いよいよ実現しつつあるのではないだろうか。

 

 


 


とはいえ、前回のアルバムから3年、というのはやはり長かった。なぜかというと、序盤に少し触れたように『QUIZMASTER』の核にあたる部分――「自分たちはロックバンドとしてどう生きていくか」という問いに対する解には『勇気も愛もないなんて』の時点で辿り着いていたはずだからだ。それにもかかわらず、この3年の間、リベンジしたり、ファイティングしたり、ニコとアコの両方をやって1曲の新曲を発表するのに2倍の労力がかかるやり方を採用したりしていたわけで。……そう考えると、引き出しの多いバンドではある一方、つくづく不器用な人たちだなあと。直線最短距離で突き進んでいるところ、そういえば見たことないかもしれない。

 

これだけ面倒くさいバンドに惹かれてしまったこと、それが幸運だったのか不運だったのかは正直よく分からない。分からないが、こんなアルバムを聴いてしまったら、あんなライブを観てしまったら、ロックバンドはやっぱりいいぞと叫びたくなってしまうんだ。いやあ、これは困るなあ、とこぼした時のその表情がいつもより若干緩んでいたとしてもどうか放っておいてほしい。

  

 

youtu.be


 


追伸:
5thアルバム、6thアルバムのリリース時にもああだこうだと書いた。こうして見ると、私がニコに求めているもの、彼らのどこに惹かれているのかという部分は、ずっと変わっていないんだなあと思う。

 

www.yumeco-records.com

 

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