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蜂須賀ちなみの日記帳

2016.3.11 NICO Touches the Walls×フレデリック@ CLUB CITTA'川崎 を観た感想

先輩風を吹かせるニコと、目一杯かわいがられるフレデリックが見たかったので。3月11日に行われた「ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ フェスト '16」の初日公演、NICO Touches the Wallsとフレデリックのツーマンにお邪魔してきました。

  

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「ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ フェスト」は2014年以来ニコが開催しているツーマンライヴツアーで今年が3年連続3度目の開催。これまでの2年で呼ばれたゲストバンドはニコとほぼ同世代の人たちだったのに対し、今年は彼らより上の世代/下の世代のバンドも呼んでいるのが特徴的。今回のフレデリックも同じ事務所の後輩にあたるバンドです。そういうブッキング面もひっくるめて、今だからこそできたツーマンだったのかなと思う。ニコが『勇気も愛もないなんて』というアルバムを作り終えて少し素直になったというか、自分たちの不器用な面を腹括って出すことができるようになった今だからこそ。それからフレデリック側に関しても、音楽のなかで自分たちの感情を明確に吐くようになってきた、という現状がある今だからこそ。以前だったら光村さんが自分たちの後輩にあたるバンドに対してステージ上で「ただのファンです」とストレートに言うことなんてなかったんじゃないかな、と思ったりする。

そしてこの2バンドには先輩/後輩という点のみではなく、どちらもちょっと捻くれているけどバンドの芯に「歌」がある、という点も共通しているのではないかとこの日のライヴを観て改めて実感。まず単純にヴォーカリストが上手い。今、ロックバンドのフロントマンで光村さんほど唄える人は他にいないんじゃないかなと本気で思っているんだけど、健司さんは将来それに負けないほどの存在になっていくんじゃないかとここ最近特に強く感じている。で、そもそも楽器隊の土台がしっかりしていないとヴォーカリストがここまで自由になれないわけだし、逆に、こういうフロントマンにいるからこそバンド全体の空気として「歌」を中心に伝えていこうっていう姿勢になっていくというのもあるし。そうやって最終的には、ヴォーカル以外の楽器も含め「歌心」のあるバンドになっているんじゃないかな。そういうところがニコとフレデリックの共通点だと再実感しました。

以下、2組それぞれに関する感想をざっくりと。
ニコはまだツアー中につきネタバレができないので、フレデリックの方を重めに書きます。

 

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★フレデリック

柔も剛も静も動も見せるセトリで、真正面から兄貴の胸元に突っ込んでいった印象。前半はライヴならではのアレンジを加えてほぼ曲間ゼロという構成。そういう演出による緊張感も相まって、あとは単純に先輩との共演ということで緊張もしていたんだろう、序盤はちょっと演奏が堅かったのかな。でも前半のあの感じ、すごく好きです。音楽のなかで全部伝えようっていう気概が感じられたので。

ここ最近のフレデリックのライヴの何が良いのかというところをひとつ挙げるとしたら、ライヴのたびに「今日はこういう想いを伝えたい」という部分を自分たちのなかで明確にしてから臨んでいるんだろうな、っていうことが伝わってくる点で。だからこそ音楽のなかで鳴らされている意志がよりクリアになってこちらにも飛び込んでくる。で、この日は、最初に書いたようにそもそも「歌が真ん中にある」という共通点のある2組のツーマンであることを踏まえて、さらにここ最近メンバーのみなさんがよく言っていた「みんなと唄いたい」っていう言葉とか列伝ツアーを経て新たに抱えた想いとかそういうのも踏まえて、とにかく「歌」で伝えようという気持ちの見えるライヴだった。例えばMCとかでそれをハッキリと宣言していたわけではないんだけど、そういうことをしなくても音だけで伝わってくるのは素晴らしいことだよなあ、と。

7曲目にはニコのカバー「THE BUNGY」を披露。完全にフレデリックならではのディスコサウンドに変貌していて大笑いしてしまった。本家の焼き増しに終始しないところがもう最高です(ラストの隆児さんのミスはおいしすぎる笑。あのフレーズがもはや身体に染みついている古村さんはやっぱりすごいよな、とも)。

そしてラストに演奏していたのがまだリリース前の新曲「オンリーワンダー」。私はこの日初めて聴いたんだけど第一印象としては彼らなりの「戦わない戦い方」を昇華したような曲だな、と。あとは何というか、このバンドならではの遊び心もあるものの、歌詞のなかで自ら「キラーチューン」だとも言っちゃっていたし勝負に出ている感がものすごい。サビのキー設定、健司さんの声を張ったときの、覚醒したみたいにスコーンと突き抜けるところを明確に狙っている感じがした。これは、ヴォーカル以外の人間(ましてや双子)が作曲しているからこそという部分も大きいかもしれない。他者だからこそメンバーの特性が活きるところを客観的に判断できる。光村さんの声がスパーンと抜けるところを計算して古村さんと坂倉さんが作曲した、というニコの「チェインリアクション」のエピソードを思い出した。

 

NICO Touches the Walls

ちょうどベスト盤をリリースした頃からこのバンドは「自らの原点をあらゆる角度から見直す」という部分に焦点を当てて活動をしていたということもあってか、2014年、2015年のときはいくらツーマンだろうと「対バン相手に寄せない」というニコ側の堅い意志を感じていて(アンコールにコラボはあったものの、ね)。それに対して今回はツーマンならではの遊び心が垣間見えたので、いい意味で気張りすぎてない感じがしました。

この日の場合は、「バンジーのお返し」と言いながら光村さんがフレデリックの「峠の幽霊」をワンフレーズ唄ったり(〈暗い暗い〉とか〈狭い狭い〉の抑揚のつけ方が光村節全開でした)、とある曲の最中に古村さんが「オドループ」のリフを弾いていたり、などなど。他公演を観に行けていないから憶測になってしまうけど、他の日でもゲストに因んだ演出があってもおかしくないんじゃないかな。

とはいえ、ゆるゆるの油断しきったテンションで進められているというわけではなく、「舎弟」と言いながら慕っている後輩=フレデリックを真っ向から叩き潰そうとしている感じがさすがでした。やっぱりニコはこうじゃないと。あと、武道館で聴いたときよりも新曲の方向性がクリアになっていたので、併行して行われているアルバムレコ発ツアーも含め、ファイナルでどうなっているのかが楽しみ。

足を運べば必ず良質なライヴを見せてくれるという意味で安定感はありつつも、特にアレンジ面での「え?こうくるのか!?」という部分が相変わらず盛りだくさんだからルーティーン感は皆無、という点がここ最近のニコのライヴが楽しい理由のひとつで、この日もそれは健在(あ、ここもフレデリックとの共通点だ)。というか以前にもまして風通し良くなっている印象。そして光村さん、フレデリックに関してはこうコメントしていました。「ロックバンドは如何に一ひねりを加えるかという部分が大事だと思うけど、フレデリックはそのひねくれ方が極上」。その言葉が丸々自分たちにも跳ね返ってくるようなものであることを今のニコなら自覚できているし、認められているし、だからこそこういうライヴをするんだろうなあ、と思いながら私は観ていましたよ。同じ理由で、だからこそ今フレデリックを呼んだんだろうとも思う。

 

そしてアンコールでは2バンドのメンバー、計7名が登場。光村さんから「健司の声で唄ってほしい俺らの曲」を選んでそれを練習してきてもらった、という経緯が説明され、演奏されたのは「泥んこドビー」でした。フレデリックにはないハードな曲調だから新鮮でありながらも、健司さんの声質やこぶしまわしが活きるこの曲。光村さん、「僕は初めて彼らのライブを観たときから、フレデリックのただのファンです」と言っていたけど、いや、この選曲は紛れもなくただのファンだわ!笑 そんなヴォーカル2人が火花散らしながらハモッていたり、ギターバトルがあったり、康司さんはフロアタム叩いていたんだけどベースソロのタイミングで坂倉さんから楽器を借りていたり、まあステージ上のあちこちでいろいろな場面が展開されながら特別感満載のセッションが繰り広げられていました。

「また呼んでいい?」「僕たちからも呼んでいいですか……?」なんて言い合っていたので、今度はフレデリックがニコを呼ぶ日が来るかも。そのときまた観に行けたらいいなあと素直に思えるような、そんなライヴでした。