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蜂須賀ちなみの日記帳

「子ども好き」の才能

その日は21時からインタビュー取材の予定が入っていた。渋谷方面の電車に乗り込むと、日曜日の夜だからか、周りの人はお出かけ帰りみたいな感じの人が多い。私の向かいに座っていたのは男女2名ずつ、カップル2組。持っている紙袋を見る限り、あの街のショッピングモールにでも行ってきたのだろう。

 

1駅分ボーッとして、取材のイメトレをしておかなければと2駅目でメモとiPhoneを取り出した。こうなると完全に集中モード。しかしその結界はすぐに破られてしまった。イヤホンから流した音楽をぶち破って聴こえる、甲高い騒ぎ声。カップルと私の間の通路を追いかけっこする、姉と弟と思しき小さな女の子と男の子。往復を繰り返す度に私の足にガンガンと当たる、二人の小さな足。両親はドアの近くに立って「こらこら~」と声をかけてはいる。叱る気なんてないんだろうな。苛々が募ってきたので顔を上げると、正面に座っていたカップルたちはその子たちの様子を見て微笑んでいた。かわいいね~、元気だね~、みたいな感じで。

 

 

 

 

私は小さな子どもが苦手だ。そう気づいたのは高校生ぐらいの時だったと思う。ちょっとヤンチャな子が公共の場で騒いているのを見て、私の友人は先述のカップルのようなリアクションをとる人が多かったが、うるさいから静かにしてほしいなと思ってしまうから、自分にはそれがどうしてもできなかった。女の場合は特に「子どもが苦手だ」とは大っぴらに言えないというか、〈女は子供好きでなければならない〉みたいな風潮は自分の周りだけではなく世間全体に蔓延している風潮のように思えて。土日祝日のフードコートが苦手で、Zepp DiverCityに行くまでの道のりを憂鬱に思ってしまう自分は〈普通〉からズレているんじゃないかと、徐々に実感し始めた。

 

子どもを産んで母親になればその価値観は変わるよ、と言われたこともある。でも、そういう未来を全く想像できないんだからそんなこと言われても呑み込めるわけがない。で、〈そういう未来を想像できない〉ということは例えば結婚を視野に入れてお付き合いしても交際相手とその辺の価値観が合わないということもあったりして、わりとシビアというか、深刻な問題だったりする。

 

子どものヤンチャすら許せないなんて、もしかして私は心の狭い人間なんじゃないか。性格に問題があるんじゃないか。そう気づいたらもう自己否定の沼みたいなのに沈んでいってしまって。多分今から2年前ぐらいかな。もうどうしようもなくなった時に私は母親にそれを話した。相談みたいな重苦しい感じではなく、「今日云々かんぬんでイライラしちゃったんだよね~、ははは~」みたいなノリで。きっと、以前他の人に言われたのと同様に「母親になれば変わる」的なことを言われるんだろうなあと思っていたけど、返ってきた答えはそうではなかった。母が話していたのは、私が小さい頃から大人しくて公共の場でも騒ぐような子どもではなかったこと、それから、幼い頃の自分がそうだったから「ちゃんとしていない」子どもが許せないんじゃないか?ということ。何か温い言葉で適当にかわされるもんだと思っていたけど、普通に分析されて笑った。因みに、焼き鳥は断然レバー派な私だが、母曰く、「それは離乳食にレバーを混ぜていたからだ」とのこと。刷り込まれたものはこうしてこびりついている。

 

 

 

 

電車の中でキャッキャと走り回る名前も知らない子どもたちと、自分の前で柔らかく笑う2組のカップルを見て、あの時の母との会話を思い出した。そしてそこからグルグルと考えてしまうのが私の悪い癖。小さな頃本当にお行儀の良い子だったかどうかは記憶にないから自分には分からない。だけどよくよく考えたら、同級生に注意したのがキッカケで小学生時代にいじめられていたのも、スカートの丈が膝より短いだけで上級生からシメられるというくだらない慣習があった中学校で先輩からそれなりに好かれていたのも、そうしてさらに同級生からは嫌われていったのも、その辺りが根本的な原因なんじゃないかと十数年越しに気づかされる。ということは、母の言っていたことは案外その通りなのかもしれない。妙に納得できた。

 

 

 

 


――って、何かすごく暗い内容になってしまったけど(笑)、元々何でこのことについて書こうと思ったのかというと、先にも触れたとおり、特に女性って「子どもが苦手だ」と言いづらいもので、だからこそ自分だけの力でどうにか直そうと人知れず悩んでいる人が実は少なくないんじゃないかと思ったから。そういう人たちに「あなたはおかしくなんかありません」と伝えたかったから、です。これを読んだどこかの誰かが「いや、こいつの場合はただ単に性格に問題があるだけだろ」と脳内でツッコんで、それで少しでも気持ちが軽くなるのならば、物書きとして本望かな。