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蜂須賀ちなみの日記帳

点滴から解放された生活

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ワイヤレスのイヤホンを買った。21世紀に入ってからもうすぐ20年が経とうとしているが、早いこと未来化してほしいと思っていた道具のひとつだった。


「音楽は酸素」


従来の有線イヤホンを気持ち悪いと思い始めたきっかけは、中学生の頃、同級生がプロフィール欄に書いていたその一言だった。気持ちは分からなくもない。当時といえば、私もちょうどウォークマンを購入したぐらいの時期。それで音楽を聴くこと自体がちょっとカッコいいものだと思っていたし、先生にバレないように再生する時の背徳感とか、 真面目に授業受けているクラスメイトに対する優越感とか、きっとあったんだろう。


だけど、何が酸素だよ。別に、音楽がなくなったから死ぬなんてことはないでしょうが。まあこれは偏見だけども、むしろ、そういうことを言う人であればあるほど、その人の生活にとって音楽はさほど重要ではないように思えたのだ、傍から見ていて。


薄っぺらい人間の言う、薄っぺらい言葉だ。心のどこかで嘲笑っていたら、次第に、耳にイヤホンを挿している人が点滴を繋がれた病人にしか見えなくなった。電車内の長椅子に人々が座る光景はまる で病院の待合室のよう。これを抜いたらみんな死ぬんだろうか。 だとしたら、この電車は私たちをどこへ運ぶつもりなのだろうか。


だから、文明の利器に感謝している。我々は、あの煩わしい管からいよいよ解放されたのだ! 気味悪い光景はそう遠くない未来に撲滅するだろう!


「ペンペンポコポン」


玄関を出る時、今日も私は昂揚した気分でワイヤレスイヤホンを起動させる。今の自分の職業や、その給料によって生活ができているという事実には目を瞑りながら。