enjii

蜂須賀ちなみの日記帳

NICO Touches the Walls『勇気も愛もないなんて』|まだ唄えなくても

親愛なるNICO Touches the Walllsが3年ぶりにオリジナルアルバムをリリースするのならば、そしてそのアルバムに心を打たれたのならば、やっぱり書くしかないでしょう。


 ということで、本日3/16発売の6thアルバム『勇気も愛もないなんて』について。

 

余談ですが、以前とある人に「あなたは光村さんに似てるところがあるけど、だからニコに惹かれたの? それとも、ニコを聴いているうちに自然とそっち側に寄っていったの?」という内容の質問をされたことがありました。ニワトリが先かタマゴが先か……。当時は自分でも分からなかったので、ヘラヘラ笑いながら「知りませんよ、というか似てませんよ」なんて言っていたのですが、このアルバムを聴き終えたあとの、今の私ならもう少し的を射た答えを返せます。


「どちらでもありません。ニコを聴くようになってから初めて、自分の性格もねじ曲がっていたんだということに気づいたんです。でも、やっぱり似てはいないと思います」と。

 

 

勇気も愛もないなんて(初回生産限定盤)(DVD付)

勇気も愛もないなんて(初回生産限定盤)(DVD付)

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------

 

NICO Touches the Wallsがリリースする6thアルバムのタイトルは『勇気も愛もないなんて』という。バンド名に〈壁〉を背負い、〈孤独〉や〈夜〉と向き合ってきたバンドが〈勇気〉と〈愛〉を歌うようになるなんて、と思った人もいるかもしれないが、大胆な方向転換が行われたわけではない。このアルバムが映し出すのは、紆余曲折を経て、自らの核に本当に大事なものを見出したバンドのドキュメンタリーである。ついて離れない闘いや葛藤はそもそも音楽に対する〈勇気〉や〈愛〉に基づくものだったと、彼ら自身が気づくまでの軌跡である。

 

5thアルバム『Shout to the Walls!』*1以降、約3年ぶりのオリジナルアルバム。その間彼らは、ベストアルバムのリリース、インディーズ時にリリースしたミニアルバムの再録(『ニコ タッチ ズ ザ ウォールズ ノ ベスト』初回限定版付属DVD『Walls Is (re)Beginning』)、持ち曲のほぼすべてを披露した篭城型ライヴ、アコースティックアルバムのリリース……と、様々な角度から原点を見直すために時間を割いてきた。それはバンドにとって断捨離のような毎日だったという。

 

では、残ったものは何か。それは根っこにあるこんがらがった性格だ。〈やめられなくてイヤになりそう/さあ イヤになったって歌にしてしまうんだ〉と音楽家としての光村龍哉(Vo/Gt)の性(さが)を暴く「フィロローグ」は、幾重に重ねられたコーラスがまるで脳内でせめぎ合う天使と悪魔の声を具現化するかのよう。陽気なリズムとともに、待ち合わせに遅刻したうえに言い訳までかます主人公のダメ男っぷりを曝すのは「ブギウギルティ」。最小限の伴奏で奏でられる「ウソツキ」では曲名に反してその不器用さを包み隠さず唄っている。終盤では「渦と渦」「ニワカ雨ニモ負ケズ」と熱量の高い曲が続くが、そのままのテンションで突っ切ることなく、「勇気も愛もないなんて」でほろ苦い後味を残していくのも天邪鬼なニコらしい。しかも〈へそ曲がりな愛満たす歌/まだ歌えないや〉なんて言っちゃってるし。


どうしたって自信を持てないくせにかなりの頑固者である。いつまでも悩んでしまうフシがあり、ジタバタと足掻いてばかり。素直に愛の言葉を吐くことなんてできないから周囲から誤解されやすい。……って書き並べると悪口を言っているみたいになってしまうが、本当にそういう曲ばかりだし、全曲の主人公は紛れもなくニコ自身だ。そんな彼らの性格がかつてなく明るいサウンドのなかで曝されている、という点がこれまでの作品との大きな違いだろう。傍から見ると器用に見えるが実は不器用なこのバンドのややこしさは、ニコ自身を長いこと悩み足掻かせてきた。しかし今の彼らは半ば開き直りながらそういう部分を自らの腕(=音楽)で肯定している。その結果、捻くれた性格さえもまっすぐに出す、という意味で最もピュアなアルバムが完成したのだろう。


こういうある種のワガママさは今までニコがなかなか出せなかったものだが、自ら背負い込んでいた重荷から解放され、情けなさや悔しさをそのまま唄う今の彼らの歌だからこそ、同じような気持ちを抱きながら悩み足掻いている人の元へまっすぐに届く。ニコが自らの内側と対峙すればするほど、その音楽のベクトルは外へ向いていく、という状況になりつつあるのだ。だから例えば、彼らの個人的なリベンジをテーマにした「天地ガエシ」や、〈間違ってた/なんか全部間違ってた〉というこれまた個人的な懺悔から始まる「まっすぐなうた」のような曲でさえ、閉じた独白には聴こえない。昨年の夏フェス出演時、当時新曲だった「渦と渦」について光村が「目まぐるしく毎日頑張ってる君らを渦と呼ぶ、俺らと君らの歌」と言っていたのも、今思えばそういうことだろう。劣等感と負けん気をエンジンにして突き進む彼らの姿が誰かを照らす光となったとき、その闘いや葛藤はもはやニコ独りのものではなくなる。

 

結局、このアルバムでは〈勇気とは?〉〈愛とは?〉という問いに対する結論が出ていない。紛らわしい言い方になるが、この3年間(もっと言うと、バンド結成~今の道のり)でニコが掴んだのは、明確な答えなんてすぐに出せないし出す必要もないんだということ――その答えを探し続けるために音楽や自分自身、それからその先にいる君と向き合っていこうという決意ではなかろうか。リード曲「エーキューライセンス」には〈あしあとが道標/何も心配しないでね〉というフレーズがある。なんだかいつも報われない彼らの青さが気になり追いかけ始めた身としてはこんなことを唄われると少し切ないのだが、変な話、ニコの音楽に背中を叩かれたのは今回が初めてだったかもしれない。年始の武道館ワンマンで光村は「勇気と愛と向き合いながらみんなへ作っていく音楽がどんどんピュアになっていけばいい」と言っていたが、そうして生み出されていく音楽と向き合う私自身もどんどんピュアになっていけばいいと思う。これから先はニコと共に笑い合えたら、そうやって末永く付き合っていけたら、と思う。

 

 

# favorite track

4曲目「エーキューライセンス」、7曲目「ウソツキ」、10曲目「ニワカ雨ニモ負ケズ

 

 

★4曲目「エーキューライセンス」(ライヴ映像)

www.youtube.com

 

★全曲ダイジェスト

www.youtube.com

 

 

 

*1:『Shout to the Walls!』について3年前に書いた記事を発掘したのでリンクを貼っておきます。文章が若いし青い(笑)。→こちら